2007年09月02日

指導者養成講習会終了

 名古屋では、7月から9月1日まで、要約筆記指導者養成講習会が開かれていた。私も受講していたのだが、とても良い講習会だった。要約筆記者養成講座で、受講生を指導する、受講生に要約筆記を教えるとはどういうことなのか、原点に戻り、しかも方法論がしっかりした内容だった。(写真は養成講習会の一コマ)

 しかし、それより何よりうれしかったのは、名古屋の要約筆記の養成・指導が、新しいフェーズに入ったと感じられたことだった。名古屋の要約筆記の歴史はかなり古い。要約筆記奉仕員養成が、厚生省のメニューに事業に入った年(1981年)から講座は開かれている。毎年の講座で、講師を担当してこられた方は、本当に一生懸命教えてこられた。けれども、それは個人個人の工夫に支えられたものだった。個人の工夫はもとより尊い。だが、組織だった対応、ということを考えると、個人個人の対応では、限界があった。
 話を少し前に戻して、地域の要約筆記事業がどうあるべきかということをおさらいしてみよう。私が考える要約筆記事業のあるべき姿は、次のようものだ。
(1)要約筆記の派遣が公的に行なわれている。派遣窓口、派遣される要約筆記者の手配などは、公的機関もしくはこれに準ずる機関が行なう。
(2)派遣される要約筆記者は、ボランティアではなく、公的な制度に組み込まれた要約筆記者である。それは、要約筆記が必要な人が、今日も、明日も、来年も、10年後も、必要なときに必要なコミュニケーション支援が受けられる、ということだ。ボランティアとしての対応では、制度的に安定な支援は得られない可能性があるからだ。ボランティアももちろん必要だし、社会全体が、聞こえない人に対して理解を深めることも大切だが、支援が必要な人に必要な支援を提供できる、という点を考えると、要約筆記者の身分保障も含めて、公的な制度の構築は、どうしても必要だ。
(3)要約筆記者養成についての一貫した指導体制がある。上記の通り、個人個人の工夫も大切だが、それを超えて、地域の指導体制が確立していることが望ましい。でないと、この年は良い講座だったが、翌年は不十分だった、という可能性がある。また同じ年の講座でも、○○講師の内容は良かったが、××講師の話は分からなかった、などと言うことになりかねない。養成カリキュラムについての理解、指導案の作成技術、講座での指導方法、などを講師が共有し、一貫した内容を、質の揃った指導で、教えられる体制があることは、受講生にとっても、またやがてその受講生を受け入れて派遣をする派遣元にとっても、その派遣を受けてコミュニケーション支援として活用する聴覚障害者にとっても、望ましい。
(4)地域の要約筆記サークルと登録要約筆記者の会が、互いの役割を理解して棲み分けている。要約筆記サークルは、多くの地域で要約筆記活動の母体となっている。名古屋とて例外ではない。しかしサークルがいくらガンバつても、登録要約筆記者の会の代替はできない。そもそも制度上の役割が全く違うからだ。サークルには、様々な人がいる。守秘義務もない。要約筆記の技術もまちまちだろう。と同時にボランティアサークルは、要約筆記通訳だけを目的とした集まりではないから、様々な活動に対して開かれている。先駆的な活動は、サークルがまず取り組み、次第にその専門性が明らかになっていくことで、新しい制度が生まれ、社会に定着していくということは多い。サークルと登録要約筆記者の会が、ごちゃごちゃに活動しているのではなく、お互いの役割と責任を理解して、活動を棲み分けている、ということは重要だが、意外に整理されていない点だと思う。

 こうした点を考えると、名古屋の場合、要約筆記奉仕員養成・派遣は、一貫して(社)名身連が行なってきたので、(1)の条件は一応満足している。また、昨年、「名古屋市登録要約筆記者の会(登要会なごや)」が生まれ、従来からあった要約筆記サークル・まごのてとの間で、役割分担についてはうまく整理ができた。例えば、公的な派遣制度にのらない要約筆記の依頼があった場合、まごのては、サークルへの依頼があっても引き受けず、登要会なごやが対応する(要約筆記通訳が必要な場面ではサークル員ではなく要約筆記者が対応するのが原則)、といったことを双方が確認してきた。まごのては、プラネタリウムの字幕付き上演など、ボランティアサークルとして先駆的な活動に取り組むなど。これは、上記の(4)の条件がある程度満たされているということだ。
 そして今回の要約筆記指導者養成講習会。上記の(3)の条件が整ったことになる。
 残された課題は(2)。これは、要約筆記奉仕員から要約筆記者へということだ。前にも書いたが、要約筆記奉仕員がまるごと要約筆記者に変わるという話ではない。公的な派遣制度の担い手は「要約筆記者」になるべきだ、ということだ。要約筆記奉仕員には、障害者自立支援法の要綱(別記6)にも記載されているように、「スポーツ・芸術文化活動等を行うことにより、障害者の社会参加を促進することを目的とする」事業がある。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/bukyoku/syougai/j01a.html
 (これは、とても重要な事業だと思うが、この点についてはまた別に書きたい)

 要約筆記の公的な派遣は、奉仕員制度によってではなく、社会福祉事業として行なわれるべきだと思う。この点が名古屋の場合、まだ未解決の問題として残っているが、(1)(4)の条件に加えて、(3)の条件が整ったことを、私は、心から喜んでいる。私自身、名古屋市の要約筆記者養成講座には講師として何年も関わってきたが、こうした指導体制を作ることはできなかった。それが、登要会なこやができ、その主導の下で、30時間の指導者養成講座を開き、指導方法について、一から共通理解を作り上げる、ということができた。これは、今後の10年、20年の活動の礎になる。講習会の実現に尽力された登要会会長と事務局長、受講料を払って参加し熱心に学んだ受講生、そしてそれを支えた登要会のメンバーに、心からお礼を言いたい。
 本当にありがとう。


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TAKA
コミックから評論、小説まで、本の体裁をしていれば何でも読む。読むことは喜びだ。3年前に手にした「美術館三昧」(藤森照信)や「個人美術館への旅」を手がかりに、最近は美術館巡りという楽しみが増えた。 大学卒業後、友人に誘われるままに始めた「要約筆記」との付き合いも30年を超えた。聴覚障害者のために、人の話を聞いて書き伝える、あるいは日本映画などに、聞こえない人のための日本語字幕を作る。そんな活動に、マッキントッシュを活用してきた。この美しいパソコンも、初代から数えて現在8代目。iMacの次はMAC mini+LEDディスプレイになった。       下出隆史
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